志学ゼミナール塾長のブログ

札幌市,中島公園近くの学習塾「志学ゼミナール」のブログです。

広瀬章人新竜王が負けてくれた思い出

こんにちは。

将棋が大きなニュースになっています。
竜王戦で,羽生竜王が挑戦者の広瀬章人八段に敗れ,タイトル獲得100期の偉業はもちこしとなりました。
棋士もアスリートのような側面があります。頭の回転,演算能力のようなものは年齢とともにだんだんと衰えていくので,今回の敗戦によって100期獲得はかなり難しくなったのではないかと思っています。期待はしていますが…

プロ棋士は本当に強いです。
昔,加瀬純一先生というプロ棋士の教室に通っていたことがあります。飛車落ちといって,飛車という一番強い駒を抜いてもらって対局して教えてもらうのですが,こちらにあわせて手加減してくださり,たまにこちらが上手に指せると勝たせてもらえる感じでした。
手加減といっても,実際には手加減してもらっていることはわかりません。それくらい上手に負けてくださるわけですし,そういう技術があるくらいに将棋が強いということです。勝てるはずがないのにたまに勝てるから手加減してくださっているとわかるのです。

1度だけ,準プロ棋士のような方(指導棋士といいます)に本気で対戦していただいたことがあります。奨励会というプロ棋士の育成機関を卒業できず,プロになれなかった方です。プロと遜色のないくらいには強いです。
飛車のほかに「角」という強い駒も抜いてもらう二枚落ちでも負け,さらに飛車角のほかに「香車2枚」を抜いてもらう四枚落ちでも負けました。
つまりは,私くらいの実力だと「飛車落ち」でプロ棋士に勝つというのは不可能なわけです。

1度,新竜王となった広瀬先生に飛車落ちで教えていただいたことがあります。そのときは,飛車落ちで勝たせていただきました。もちろん手加減してくださったのでしょうが,勝ったときはそんなことわからず,純粋にうれしいものです。

当時は,今と違ってすごく真面目?に将棋を指していたので,指導対局を受けたときには,自宅に帰ってパソコンに棋譜を入力していました。
棋譜というのは,1局の将棋を初手から最後までどのように指したか記録したものです。ある程度強くなると,初手からどういう順序でどう指したかを全部記憶しているようになります。途中の盤面に自由に戻すこともできます。プロの先生方が将棋が終わった後に「感想戦」というものをやっているのは,途中の盤面に戻して,難しい局面を再検討しているわけです。
そこで入力していて,最後の最後のもう少しで勝ちだという局面で,私はものすごく悪い手を指していたことに気がつきました。指していたときは「会心の一手だ」などと思っていたのですが,まったくの無意味な一手パスみたいな手でした。ふつうはその手によって逆転負けとなるのですが,広瀬先生は上手にその手にお付き合いくださり,つまりは私の悪手が利いている振りをした手で対応してくださり,私に勝をプレゼントしてくださったのでした。

「普及」であるとか「ファンサービス」であるとか,そうした考えもあるのでしょうが,大ポカをした相手にまで負けてあげるとは,人間の器の大きさが違うなあと感じたものです。
広瀬先生は小学生時代を札幌で過ごされたということもあり,ずっと応援しております。今回の竜王戦の挑戦者決定戦は,9月6日に行われました。北海道の震災の当日です。被災した北海道のファンのためにもがんばるというお気持ちもあったことでしょう。その対局も勝ち,タイトルを奪取されるとは,「持っている」男はやはり違いますね。
広瀬先生,羽生先生の今後のご活躍も期待しております。

では。