こんにちは。
『星々の悲しみ』(宮本輝著)を読み直してみました。やはり名作です。
冒頭の場面は次のようなものです。主人公は高校を卒業したばかりの予備校生です。その予備校生が,ふとしたきっかけで図書館に入り浸り,本ばかり読むようになります。
その場面の一節がこちらです。
「そのとき,むしょうに,ぼくは現実的でないもの,遠い世界のもの,心ときめくもの,しかし嘘偽りのないものの中にひたり込んで行きたくなったのだった。」
何となく勉強をするのが嫌になった,そんな気持ちはよくわかるものです。衝動的な気持ちが,美しい文章でつづられています。
別のある小説には,次のような一節があります。
「浪人生活は味気なかった。高田馬場の予備校に通うことにしたのだが,私は初日から授業を欠席した。正確に書くと出かけてはいったものの,まえのほうの席に座ろうと列を作っている連中を目にして,たちまち気持ちがなえてしまったのだ。」
同じ精神性,世界観ですね。
幸いにして,浪人せずに大学に入った私ですが,同じく18歳のときに似たような経験をしています。
私が大学に入学してはじめての講義に出たときのことです。統計学入門という1年生の必修科目でした。
講義がはじまる5分前に教室に着くと,すでに教室は満員でした。やる気のある学生たちは,教室の後ろに立っていて,何とか講義を聴こうとしています。教室の後ろにもスペースはすでになく,廊下の窓から教室内を覗いて,それで板書を写そうとしている学生までいます。
そんな光景を見て,どうでもよくなってしまい,最初の授業からさぼることになります。
改めて小説を読んでみて,自分の本質のようなものが垣間見えた気がします。文学とか哲学とか,何の役にも立たないという極論も目にしますが,生き方の指針,自分自身の本質を考えるものですので,もっとも重要であるとすら思われます。
では。