志学ゼミナール塾長のブログ

札幌市,中島公園近くの学習塾「志学ゼミナール」のブログです。

安心させること

こんにちは。

勉強しない子に対しても安心させてあげることが必要,
ときには「漢方薬」のようにバランスを整えてあげることが必要と前に書いたことがあります。
今日は,その具体例ですね。
昔,こんなことがありました。
生徒はMさんとしますね。

春期講習が終わってすぐでした。
教室に親御さんから電話がかかってきました。
春期講習を受けてくださった新中学3年生のお母様からで,電話を受けたのは教室の女性スタッフでした。
「うちの子がまったくやる気がないので,やる気が出るように本人に話してほしい」と
ご本人と先生との面談のご希望でした。
当時,教室長代理という肩書でしたので,後日,私が面談することになりました。
ただ,Mさんは普段この教室に通っているわけではなく,
私が講習で授業を担当したわけでもなく,立場上,仕方なく私がということです。
そんなものは無理だし,困った親御さんだし,何よりご本人が一番迷惑しているだろうなあと,スタッフ同士で口には出さないものの,顔を見合わせていました。
無理だから形式的に義務的に面談するだけですね,という暗黙の了解もありました。

さて,面談当日です。
無理だとはわかっていても,何かしらできることはあるかもしれませんし,誠心誠意の対応はするつもりでした。
いらしたのはしっかりとあいさつできるとてもいい子でした。本当に感じがよかった。

最初に,
「たぶんいろいろな人から,がんばれとかやらないと困るだとか,言われてきたと思う。それでもダメだったのだから,初対面のぼくにはおそらく何もできないでしょう。」と率直に伝えました。

そしてまずは勉強のことを聞きました。
ふだんは他塾に通っていて,やる気がないから春期講習だけ無理やりレベルの高いこの塾に行かされた。この塾の講習は同じような理由で何回目かだった。ふだん通っている塾では宿題もやらないし,学校の勉強も一生懸命ではないし,勉強も大嫌いだと,このようなことをおっしゃった。

「嫌いなら,塾を辞めたらどう?」と正直に提案すると,
でも,勉強しないと将来困るし,食べていけないだろうし,就職もできない可能性もあるし…と,次々子どもらくない現実的な不安が口をついて出てきました。周囲の大人たちが,いつも不安をあおって勉強しなさいとおっしゃる様子が手に取るようにわかりました。それでMさんは不安に押しつぶされているようです。

部活をやっても手につかなくて楽しくない。遊びもそう。いつも気が晴れないとおっしゃる。
何に対しても一生懸命になれないし,中学受験で失敗したこともあって,がんばってもどうせ無駄だという気持ちもあるとのこと。

それでこんなことをMさんに伝えました。
・ものすごく不安なんだね。不安で不安でしようがないんだね。よくわかるよ。
・しっかりとあいさつもできるし,Mさんはものすごくいい子だと感じたよ。だから大丈夫だよ。ぼくの友達でも,勉強が全然できなかった子も,警察のお世話になった子も,みんな今は幸せに生きているからね。
・まだ,中学生で,自分の力とか特性とか,そういうものがよくわかっていないと思う。それで不安になるのは中学生では当たり前のことだよ。でも,何かに一生懸命に取り組んでみたら,だんだんと自分の形みたいなものがわかるようになってきて,どこまで自分ができるのかも見えてくるよ。
・部活でも勉強でも何でもいいから一生懸命に取り組んでみたらどうだろうか?結果は成功するか失敗するかはわからないけれど,きっと頑張った結果として不安な気持ちだけはなくなっているはずだよ。不安でなくなる,といことだけはぼくが保証するよ。

Mさんは,(おそらくかなり久しぶりの)晴々した笑顔で帰っていきました。

翌日,お母様からお礼の電話がありました。電話口で涙ぐんでらっしゃるようでした。
Mさんと会ったのはこれが最後です。
この塾に来たのも「やる気がないからと,講習だけは親に無理やり行かされていた。」というものでした。
他塾でがんばることができるようになり,ここに行かされることもなくなったのだと思います。

Mさんの名前も実は覚えていません。
ただ,その後の高校受験でどうなったのかも当然知りませんが,今は幸せであることは確かだと思います。

では。