志学ゼミナール塾長のブログ

札幌市,中島公園近くの学習塾「志学ゼミナール」のブログです。

忘れ物を取りに来た少年

こんにちは。

先日,新たにプロ棋士の座を勝ち取った方がいらっしゃいます。
渡辺和史新四段です。

日本将棋連盟ホームページ「新四段誕生のお知らせ」

昔,きちんと働かずに,日本将棋連盟の道場というところでアルバイトをしていた頃,当時は小学生だった渡辺和史くんが,ほとんど毎週,道場に遊びに来てくれていました。
和史くんは小学4年生ですでにアマ三段で指していました。私のほうが少し弱く,何度か将棋を教わったことがあります。序盤中盤で大きくリードを奪っても,終盤で簡単にひっくり返されてしまいました。そんなことが懐かしく思い出され,また,あの少年がプロになったかと思うと感慨深いものがあります。

そんな渡辺和史少年について,印象深く覚えていることが2つあります。
渡辺和史少年ですが,その頃から強く,いつも道場の手合いカード(勝敗を記録するものです)には,勝を表すたくさんの白〇が並びました。
ある日のこと,その日は調子が悪く,和史少年の手合いカードには負を表す黒〇がたくさん並んでいました。
和史少年の帰り際,私の隣にいた職員の方が,プロになりたいのならそんなことでめげてはだめた,という励ましの意味を込めて,「あら,真っ黒だね」と声をかけて手合いカードを彼に渡していました。
和史少年ですが,目にいっぱいの涙をためて,泣くのをこらえていたのを覚えています。
しかし,感心したのは次に彼がとった行動でした。彼は,帰るときにはいつもそうしていのですが,いつもと同じように,道場の入り口で気をつけをして,「ありがとうございました」と深々と頭を下げたのでした。
まだ小学4年生なのです。驚くほど人間ができていますね。

またある日,和史少年は珍しく帽子を道場に忘れていったことがありました。
別の職員の方とお話をしていて,和史くんはご両親もしっかりされているから必ず取りに来るだろうと,その方はおっしゃっていました。事実,次の週の朝一番に帽子を取りに来て,丁寧にお礼を言っていました。

道場にはたくさんの子どもたちが来ていました。それで,たくさんの忘れ物も届けられたのですが,持ち主が現れることはほとんどありませんでした。忘れ物の話は以前にも書いたと思います。塾の受付に届けられた忘れ物を取りに来る子はほとんどいないと。
忘れ物については,新しく買えばいいとか,そうした問題ではないでしょう。忘れ物を取りに来くる子と来ない子では,教育の差は非常に大きいのかもしれません。

見事,プロ棋士になった渡辺和史先生ですが,こうした教育の力,人間としての力がプロになれた要因の1つかもしれません。
今後の渡辺先生のご活躍を楽しみにしたいと思います。

では。